金原ひとみの『蛇にピアス』が面白かったから感想を書く

『蛇にピアス』は、ここ最近読んだ本の中で一番えっちだと思った。

『限りなく透明に近いブルー』もセックスの描写がたくさんあったけど、あれは読んでいて不快感を伴うものだったし、『ノルウェイの森』はやらしいとも思わなかった。

でも、『蛇にピアス』はえっちだなと思った。
きっとセックスそのものに登場人物の葛藤がなくて、単純な性行為の描写だからなんじゃないかなと思う。

まあ、『蛇にピアス』のセックス描写は作中では本筋ではないんだけども。でもすごく印象的だった。アンダーグラウンドな世界に住む彼女らの生活を描写する上で、なくてはならないものだったと思う。


蛇にピアス (集英社文庫)

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蛇にピアス [Blu-ray]

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作家・金原ひとみ

『蛇にピアス』は、金原ひとみのデビュー作。
この作品は、すばる文学賞を受賞していて、しかもさらに、綿矢りさの『蹴りたい背中』とともに芥川賞を受賞して話題になった。

ちなみに、金原ひとみは1983年生まれ。
出身は東京都。


蹴りたい背中 (河出文庫)

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  • 作者:綿矢りさ
  • 発売日: 2013/10/04
  • メディア: Kindle版


あらすじ

「スプリットタンって知ってる?」というセリフから物語が始まる。
主人公の女の子であるルイに、アマという男が自分のスプリットタンを見せる場面で、ルイがスプリットタンに強く惹かれる場面だ。そうしてルイはアマと同棲することになる。

スプリットタンというのは身体改造の一種で、舌にピアスやメスを入れることで、蛇のように舌の先端を二股にすること。

「スプリットタン」で画像検索してもらえればわかると思うが、なかなかに刺激的なもので、一般的には入れ墨よりも忌避感が強いものじゃないだろうか。



さらにルイは、入れ墨の彫師であるシバさんとも関係をもつ。
そしてスプリットタンの身体改造を進めながら、入れ墨もいれてしまう。

そんなルイが、アマとシバさんの間をふらふらとして、身体改造への暗い情熱に流されていくお話。



流される生き方

何か大きなものに流されてしまいたい、そういう気持ちは少なからず誰にでもあると思う。人によってはそれが仕事だったり、恋人だったり。
何か大きな流れというものを川に例えると、流れがとまった川の部分はよどんでしまうように、停滞した人生というものには苦痛が伴う。人生において、何もしない、何もできない、というのは意外と苦しい。

主人公のルイは、家族でも、仕事でも、自分のアイデンティティでも、拠り所となるものがない。自分で能動的に生きていけないから、何かに流されてしまいたいと思っている。
だから、アマとシバさんの間をふらふらと成り行きにまかせて行ったり来たり。

ルイにとって、情熱を傾ける方向がスプリットタンや入れ墨じゃなければいけない理由はないし、信条や信念があるわけでもない。でも熱心に身体改造にいそしむ。
それは簡単に流されてしまえそうな刺激的なものに見えたから、そういうアンダーグラウンドな世界に流されていったんじゃないかな。



作中では、こういうシーンがある。



    (『蛇にピアス』集英社文庫 p113抜粋)
  • 冷蔵庫の中の冷え切った水をペットボトルのまま飲むと、舌の穴を水が抜けていく。まるで自分の中に川が出来たように、涼やかな水が私という体の下流へと流れ落ちていった。


ちなみに、上にある「舌の穴」は、舌に開けたピアスの穴のこと。